11. 江戸看板の種類と特徴

2013年5月18日(土)、丹波市青垣町にある「関西花の寺第4番札所の高源寺」で、関西花の寺創設20周年を記念する花法要がおこなわれた。南部白雲さんはこの日に「関西花の寺25か所」の板看板25枚を収めている。
関西花の寺の看板はすでにあったが、この年に創設20周年を迎えるにあたり看板も新たにしようと1年以上前から白雲さんに発注していたのだった。白雲さんは半年かけて寺々を訪ねてご住職の要望なども参考にデザインをおこした。
それぞれの寺の代表的な花をポイントにあしらい彩色している。以前の看板と比べると、その文字(木本南邨書)も格式高く、花の寺にふさわしい立派な看板となり、ご住職たちは大いに満足の様子だった。
この看板は寺の門柱に掛けるようになっているので、「掛看板」ということになる。一口に看板といってもその種類はいろいろあり、「看板がその本領を発揮するのはなんといっても商工業が発達する江戸時代、とりわけ元禄以降」(『看板』岩井宏實著)であった。モースが「家内芸術」と惚れ込んだ江戸看板である。
では、この時期に発達した看板の種類はどのようなものがあるのか、同書(『看板』)を参考にみてみよう。
<屋内用の看板>
・置看板
店の正面に立てる大きな衝立式の看板。小間物問屋・白粉屋・紙屋・饅頭屋・薬屋などで多く用いられた。
・掛看板
壁に掛ける。この看板にいっそうの装飾をほどこしたのを「飾看板」と呼んでいる。
・障子看板
道に面した店の表障子を利用した看板。米屋・魚屋・髪結屋・茶屋・甘酒屋・居酒屋・
蝋燭屋・質屋などに見られた。
<屋外用の看板>
・軒看板
店舗の軒先に吊るす。小形の長方形か高札形のもので、桃山時代から江戸時代初期に多かった。片面だけでなく、店の左右から見られるように両面に書いたり刻んだりしている。店を閉めるときに取り込むことから、閉店することを俗に「看板」というようになった。商家は、この軒看板が古いほど老舗としての信用力(値打ち)もあると考えた。
・立看板
街路に置く立体的なもので、多くは箱型になっているので「箱看板」ともいわれる。台石に支柱を立てた豪華な常設のものと店内に仕舞う小型のものがある。
三井越後屋の立看板は大型の代表的なもので、屋根の庇の上に位置するほど大きな看板を長い支柱に立てていた。
・屋根看板
大坂は道幅が狭いために定設の立看板は発達せず、屋根の上に大きく取り付けた看板が多く見られた。
・行灯(あんどん)看板と提灯(ちょうちん)看板
夜間の営業に重きをおく商家で多く見られた。遊女屋・待合茶屋・旅寵屋などは「掛行灯」鰻屋などは「軒行灯」、芝居茶屋などは「提灯」
・旗看板や幟看板
餅屋・寿司屋・砂糖屋などに多かった。

屋内・屋外用の分類のほかに、実物看板、容器看板など、看板の材質や形状などの特徴で呼ばれたりもする。
・板看板
「関西花の寺」の看板のように板に文字を書いたり彫り込んだりした看板。
・実物看板
文盲の人でも一目でわかるように実物そのものを軒下などに吊るした看板。笠屋・麻苧屋・鏡屋・数珠屋・籠屋などに見られた。
・容器看板
商品の容器を形どったものを看板とする。茶屋・酢屋・味噌屋・醤油屋・油屋など。
・模型看板
実物が小さくてわかりにくい商品を大きく見せた看板。足袋屋・蝋燭屋・矢立屋・袋物屋・帳面屋などは実物の模型をつくった。
実物模型ではなく、商品との深い関係をよく物語るものとして、酒屋は杉玉の酒林(さかばやし)を看板とした。酒壺を「みわ」といい、酒の神を祀る三輪神社で、杉を神木とすることが縁で、ボール状の杉玉(酒望子とも言う)を飾るようになったという。
また、味噌屋は味噌を盛るときに使う切匙の模型を看板とし、足袋屋は足袋型の大きな模型を看板とした。
・判じ物・語呂合わせ看板
いまで言えば「オヤジギャグ」ことになるが、江戸っ子はシャレが好きである。
「江戸時代も明和・安永のころになると、世間一般に判じ絵の摺物を交換する遊びが流行ったり、浮世絵の画題に文字の代りに判じ絵を用いる風が広まり、洒落本・浮世草子が生まれて江戸風の『洒落』とか『通』が庶民生活の中の一つの流れになってくるとともに、看板にもそれに応じた意匠が工夫され」、なぞなぞめいた言葉や模型を看板としたものが出回るようになった。
たとえば湯屋は、弓に矢をつがえた形のものをつくり、「弓射る~湯入る」
饅頭屋は、荒馬の馬形をつくり「あらうまし」
櫛屋は「十三屋」と書いた。九と四(く・し)を足して十三となる。
同じように、うどん・そば屋が「二八」と書いたのは、いわゆる「二八そば」(うどん粉とそばの割合)の意味ではなく、代金十六文を意味した。
楊枝屋が、猿の置物を置いたその心は、猿をマシロとも言うのにかけて、磨けばマシロシという意味である。
質屋が「将棋の駒」を看板としたのは、「入れば金になる」=将棋のナリ金を意味する。さすがに現代には通用しないシャレだから、こういう類の看板は見かけないが、捜し歩けば無くもないだろう。
店内に置いたりする「縁起物看板」というのもある。有名なのは「福助足袋」で、幸福を招くという福助の彫像を置いている。

南部白雲さんは若い頃からお店の看板を制作してきたので、もう相当な数にのぼる。文字を彫っただけの鮨屋の板看板もあるが、その店のシンボルとなる商品やモノを具象化したりシンボライズして彫刻したものが多い。
その中でも、井波の土産屋の依頼で制作した「大黒様」の置き看板は立体彫刻で、上記の分類にあてはめると「縁起物看板」ともいえる。足元のペダルを踏むと大黒様がノミを打ち、お盆に乗ったお茶が出てくる仕掛けになっている。お客の財布のひもをゆるめるという意味では、「仕掛け看板」あるいは「販促看板」ともいえるだろう。 平野 隆彰

※右上写真:関西花の寺の花法要(13.5.18) 。書家・木本南邨氏と南部さん