商人道に学ぶビジネスの鉄則

■著者
小林宏至著
■出版社

起業のプロが教える
会社の創り方、
育て方、
手離し方

今こそ先人の智慧に学べ!
不況の時にも耐えられる経営が本当の健全経営である(倉本長治)
節約こそ神仏儒に次いで大切なこと(石田梅岩)
入るを計って出るを制するのが商売の基本(井原西鶴)
資金のなさを心配するな、信用の足りないことを心配せよ(松下幸之助)

<目次>
第1章 商人道とビジネスモデル
第2章 正しい商人道を学ぶ
第3章 経営者の羅針盤
第4章 現金(キャッシュフロー)を準備せよ
第5章 商機は"今”だ
第6章 会社は誰のものなのか
第7章 シンプルな経営が一番

マネジメント社 定価 本体1429円+税

著者のコメント  はじめに

 この春(2007年3月)、私は甲南グループの一社『甲南チケット』を、M&Aによってオリコグループに譲渡しています。

『甲南チケット』は直営店舗数(37店)で業界大手というだけでなく、売上も利益率も他社を大きく引き離し、財務内容も知名度も評価されていました。そういう高い評価があればこそ、大手銀行を通じて上場企業二社からほぼ同時期にM&Aの話が持ち込まれたわけです。両者とも条件は悪くなかったのですが、結局、オリコグループの熱意のほうを選択することになりました。将来的にはわからないけれど、『甲南チケット』のブランド名はそのまま生かされることになっています。

 M&Aまでの経緯については本書で詳しく述べていますが、私は5、6年前に『甲南チケット』の上場を熟慮した末に止めています。しかしいずれは、上場もしくはM&Aによって、私自身がこの経営から離れないといけないと考え続けていたのです。

 私には3人の子ども(娘と息子ふたり)がいます。息子のどちらかに『甲南チケット』を継いでもらうことも考えましたが、すでにこの会社は同族経営の限界を越えた企業に成長していました。

 息子たちには息子の人生がある。上場してもおかしくない優良企業を息子に継がせて余計なプレッシャーを与えたくもない。息子たちが事業をするならするで、自分で新たに創業する気概をもってやってほしい。創業者として強くなってほしい。『甲南チケット』をいっそう発展させるためにも同族経営から卒業させ、広い市場に出したほうがいい。また私自身の年齢も考えて、いまがそのタイミングだと判断したわけです。

 M&Aは短期間でできる上場と同じことです。上場によるキャピタルゲインはないけれど、『甲南チケット』がこれまで蓄積した企業価値が売れて創業者利潤に変わる。この売却資金を次の事業に転用するためにもジャストタイミングだったのです。

 幸い、『甲南チケット』の信用力のおかげで設立した『甲南アセット』の業績は順調です。この事業にM&Aによる資金を投入するとともに、新たな企業を育てることも考えていました。

 その新たな企業の一つがIT関連の会社です。現代は車や家電やカメラなど、ほとんどの製品にコンピュータソフトが組み込まれており、ソフトの整合性が狂うと大変な事故につながり企業の存続さえ危うくなる。工場のラインで製品化する以前に、ソフトそのものをテスト検証して問題点を潰しておく必要があるわけです。甲南グループが投資するIT関連会社は、ソフトの品質をテストして検証する専門企業で、最近急速に業績を伸ばしています。近い将来は関連企業の協賛も得て、独自の専門学校を創ることも視野に入れて動いています。

 独立起業してから三十数年。IT関連会社に投資するのは初めてのことですが、私は常に新たな業種、新たなビジネスモデルに取り組んできました。どのようなビジネスであっても成功の鉄則、経営の基本は大きく変わるものではありません。しかし最近、ビジネスモデルの寿命はあまりにも短い。そこに現代経営の難しさがあり、経営者の手腕や人間力が問われてくるわけです。

 本書では、経営者として商売人として守るべきモラルや哲学、成功する事業の鉄則のこと、変化の激しいビジネスモデルをどう変革していくかといったことを、私の経験とノウハウに基づいて述べています。これから起業する人たち、あるいは新たなビジネスの開拓、現業の飛躍発展を期す人たちが、ここに述べた鉄則や基本を実践すれば、かならず成功すると私は確信しています。

 ただし言うまでもなく、事業を成功に導くためには経営者の哲学、熱い情熱と信念に基づく行動力が必要です。「成功とは、成功するまで続けることだ」ということを肝に命じて、成功の鉄則を実践してください。

   2007年8月
                                      小林 宏至