あなたの起業応援します 成功80の考え方
プロローグ
高齢者というのは65歳以上からで、前期・後期・末期(85歳以降)という年代に分けられている。末期というのはいただけない言葉だが、それはともかく私はいま後期(75歳)に属する。老人には違いないが、気持はまったく少年のままである。私のような老人は今後ますます増え続けるのではないだろうか。そんな思いからこの原稿を書いている。
平成のバブル崩壊以降ますます少子高齢化がすすみ、景気も悪いので社会全体が何となく沈滞していた。国は、起業家を増やさなければいけないということで、法人設立の簡略化など法律の改正をおこなった。その効果もあってかベンチャー起業がさかんになった。しかし起業成功の確率があまりにも低く、やがてベンチャービジネスという言葉そのものが失敗の代名詞のように見なされるようになってしまった。
私は、関西ニュービジネス協会の常任理事として長年こうした状況を見ていたので、常々歯がゆい思いを抱いていた。そこで私は、JR神戸駅前の自社ビル(ファースビル)に神戸インキュベーションセンターを設立した。企業の巣立ち、すなわち自立までを支援しましょうというのが設立の目的だ。
そして2003年、私の初めての著書『起業の鉄則』を出版してしばらくしてから、「起業の鉄則塾」も開くようになった。毎月講師を呼んで、わが社の会議室でさまざまなジャンルの商売・事業について勉強会を開いてきたが、早いもので今年(2013年)7月に百回目を数えることとなった。
しかし、この「起業塾」の活動をはじめ関西ニュービジネス協会での十年を振り返って最近つくづく思うことは、若い起業家がなかなか育たないという厳しい現実である。社会が物質的に豊かになったことに比例して、夢と志のある若い人材が少なくなり、起業家を育てる社会の土壌そのものも痩せていったからだ。
少年の夢から起業家は育つというのが私の持論である。したがって、その夢を育てるためには学校教育から根本的に変えていく必要があるが、同時にまた、少子高齢化の現実も視野に入れて起業家を育てるべきだろうとも思う。
そのためには人口がもっとも多い団塊世代前後のパワーをもっと活用する必要がある。人生80年と言われる今日、この世代はまだまだ若いし、経験知識・技術をこのまま眠らせてしまうのはあまりにももったいない。本人はもとより国全体においても大きな損失だ。
私は、35歳で会社を辞めて起業した。そして25年後に第二創業して、まったく新たなビジネスモデルにチャレンジした。十数年で年商200億円を超える会社に育てあげ、M&Aでその会社を売却した後、現役引退のこともちらっと頭をかすめたが、そこから更に67歳で第三創業して新たな事業(甲南アセット)を興し、現在に至っている。
夢と志があるかぎり企業家に引退はない。だから、会社でリタイアを迎えた世代の人たちも、夢と志があるなら、自らの経験やノウハウ、人脈などをフルに活かし、いまから奮起して独立起業してほしいのだ。若い起業家の成功率があまりにも低いという理由からだけでなく、この世代の人たちにはまだ実現していない「少年の夢」が数多くあるはずとも思うからである。若くても心が老いていれば老人であり、肉体が衰えていても心が若々しければ立派な青年なのだ。ひと昔前の60歳は老人だったかもしれないが、今の60歳は違う。自ら「引退」を急ぐにはあまりも惜しい。
そこで本書では、これから起業を志す若い人たちだけでなく、リタイアを迎えた世代、あるいはいま事業をやって伸び悩んでいる人たち、そしてまた第二創業を思案している経営者たちのことも視野に入れて書くことにした。いまの商売で何とか食べているけれど、どうしたらここから一歩踏み出し、事業として発展させることができるのか。そう思い悩んでいる経営者が実に多いからだ。
商売というのは、起業して軌道に乗せるのも大変だが、そこからさらに発展させるときも、別の意味で大変なエネルギーがいる。しかし本書に書いてある「実践から生まれた起業&事業成功の鉄則」と商人道をしっかり守ってやれば、かならず成功させることができる。現に私がそうやってきたのである。成功できるかどうかは本人のモチベーションや情熱、夢の持ち方にかかっている。
日本という素晴らしい国に生まれたことは、それだけでも幸運なことだと私は思う。先ず両親に感謝しよう。環境に恵まれていないのなら、むしろそれをバネにしよう。そして、せっかくいただいたその幸運を活かし、少年の夢と志のある人たちが一人でも多く立派な起業家として成長してくれることを心から願っている。
あなた自身の人生ため、そして日本のために。
2013年7月13日 起業の鉄則塾100回記年の日に
小林 宏至(株式会社 甲南アセット代表取締役社長)