食と農と里山 VOL.1
26の手のひらの宇宙・人 著
もくじ
IT世代の田舎Life style?サトヤマ×ワカモノ? 安達鷹矢
有機農業のすすめ 荒木武夫
企業組合氷上つたの会をたちあげて 大木智津子
丹波の里山暮らし~この十年を振り返って 木村裕輝
丹波鹿料理物語 鴻谷佳彦
スリランカの里山キャンディアン・フォレスト・ガーデン 河本大地
食べ物から見える世界 斉藤武次
手のひらの宇宙 ―― 古民家との出会い ―― 才本謙二
宇宙の中で踊っている? 坂口典和
野山を駆け巡った暮らしが「五感の原点」 坂本明久
奥丹波そば街道をつくろう! 佐藤 勉
丹波の里山暮らしは運命だった私のDNA 妹尾栄二
食と農と里山と ― フロンティア・デザインの始まりの前に ― 髙嶋正晴
モンスーンアジア諸国の棚田の耕作放棄と崩壊 辻井 博
林業的な視点について 西田浩之
支え支え合うオーガニックなサイクルを 福井佑実子
あなたも「サスライ人」になりませんか? 藤本傑士
国破れて山河あり、地域衰退して国破れり 松井哲造
ガーガーじいちゃんの百姓記 村上鷹夫
炎を前に。 森脇伸也
身土不二 ― 丹波伝心への思い 柳川拓三
シカの「いのち」を丸々活かし地域を元気に 柳川瀬正夫
丹波黒さや大納言小豆復活記 柳田隆雄
種とり人との出会いで学んだこと~「ひょうごの在来種保存会」と共に ~ 山根成人
丹波の四季・旬料理 余田亮一
神さまってどこにいるの? 真砂秀朗
食と農と里山 Vol.1 執筆者一覧
はじめに
天高く爽やかな秋晴れの日曜日。早朝から日役の草刈で汗を流したあと、十人ほどの村人たちは日陰になったコンクリート床にどかっと腰をおろし、缶ビール(発泡酒)を飲みながら冗談話に花を咲かせた。
「この間夜遅く、オヤジが夢のなかでもボケおって。空気がない空気がないと言うんで、窓を開けて空気を入れ替えてやったら、『おおきに、空気があるわ』って言いよるねん……、あっははっ」
オヤジさんは95歳になるという。何とも味わい深い話だこと。話題のなかには必ずこういう身近な「高齢化問題」が含まれる。あと十年、二十年先の集落と農業、自分自身もどうなっていることやらと笑いながら話すのである。とりとめのない話が続くなか、光ケーブルまで伸びた八重桜の枝を伐ったことから、「NTTと関電の競争のおかげで安くて便利になった」と光通信の話題ものぼった。
この十月、西宮から丹波に移住してまる十年になる。インターネットに頼る仕事柄、田舎に住む不便さを感じたことはないが、高速光通信のおかげでさらに便利になったのは確かである。しかし便利という基準で里山暮らしを選んだわけじゃない。むしろ便利過ぎて騒々しい都会を逃げてきた。農的暮らしを求めて……。
振り返ってみると、私は丹波に暮らして三、四十年経ったような気もしている。実際、『田舎は最高』(2007年8月発行)という本には、「ここにはもう十年、二十年以上も住んでいるような気がするなぁ……」と書いた。
移住して一年過ぎた頃、農道を散歩しながら心癒される感慨を抱いたのだった。麗しい里山を残してくれた先人たちに感謝しなくてはいけない、と。この里山が私の細胞深くまで染みついた今、半世紀近い季節のめぐりを感じてもふしぎではないだろう。
四季のめぐりの中の「食と農と里山」は普遍性のあるテーマであり、人が人らしく生きられる原郷(故郷)だと思う。それは田舎に暮らしている人なら体感としてわかるはずだが、都会に住んでいたら頭で理解しても実感がともなわない。ある意味それは残念で不幸なことだと言える(「大きなお世話」かもしれなので小さい声で言おう)。
今年の春、あうん社が創業二十一年目を迎えたことから、私は「仕事の原点」にも戻ろうと考えた。思案の末に生まれたのが、このシリーズ企画「手のひらの宇宙BOOKs」である。創刊ゼロ号に続いて本書は第1号にあたる。
記念すべき第1号には26人の「手のひらの宇宙」が集った。ユニークで味のある話ばかりである。それぞれの視点や経験は異なっても、“食・農・里山 ”は切っても切れない一つのものであることがひしひしと伝わってくる。
私たちのいのちを支えてくれる“食・農・里山 ”を守り育て、次代に引き継ぐことの大切さを、読者の一人ひとりが改めて感じてくれることだろう。(「はじめに」より)