再編集能力が発展するネット時代
上山信一 - BOOKSCAN × 著者インタビュー
―― 書き手として出版業界の変化について感じられていることはありますか?
上山信一氏: 私はこれまで時事通信社の『地方行政』という専門雑誌で、専門家向けの記事をたくさん書いてきました。それを束ねて再構成して本にしたり、講演などで話してきた。そうこうしているうちにネット時代になって、本の書き方が変わった。最近はメルマガとかブログを基にして、本でも見開きで一つの話が完結するスタイルになってきています。また、本のスタイルがデジタル化しているのです。10年ぐらい前に私が書いた本は、いわばドイツ風で、章立てが非常にシャキッと構造化されていて、1章から読まないと分からない。最近の本はどこを開いてもそこのセクションだけ読んでくださいみたいな、そういった作りに変わってきた。体験談も、プロジェクトの仕方、経過を時系列に書くよりも、ここは肝だと思った話を切り取ってスナップショット的に出す。今、日経ビジネスオンラインでやっているのもその実験。まさにスナップショット的な提言で、面倒くさい話はいちいちレクチャーしない。それでいて世間にある薄っぺらい改革論に横ヤリを入れる趣旨なんです。だからイライラする読者も多いみたいです。「正統派の改革派じゃない」とか。すぐに「アメリカでは」と言うような連中からすると、おかしいということになる。最近の米の話なんかは、「どう見ても守旧派じゃないか」とも言われます。おもしろいのは業界通の改革派と守旧派の両方から突っつかれること。でも、気にせず一般の人が素朴に思っているところにストレートにはまるということを目指しています。だから私がやっていることは、ずっと「裸の王様シリーズ」なんです。
―― 電子書籍などが発展していますが、メディアの変化で読み方も変わってきますね。
上山信一氏: 検索機能の存在が凄く大きいのだと思います。例えばヤギと休耕田の話を書いたことがありますが、ヤギに関する本を検索すると、ほとんどが畜産の本です。しかし1割は米作りに関するものだったり、検索すると新しい発見が出てくる。ほかにも世の中の人のマインドシェアがどこにあるのかが分かる。インターネットだとインタラクティブなコメントが返って来たり、知的活動の相手が広がることは良いことだと思います。
あと、今までは持ち運びやすさから新書や文庫がよかったけれど、電子ブックになると1冊2冊という単位の意味がなくなる。電子ブックは、巻物みたいなものになるかもしれません。雑誌の連載シリーズみたいに、エンドレスに流れていく。だからこうなるともう書籍か何かよく分からない。それから、日経BPオンラインの実験では、私が専門誌や本で書いた文章のエッセンスを抜き出して、再度一般向けに出していく。過去の文章の組み替えなんですが、今の文化とデータにあてはめて出していく。あるいは行政改革とか農業政策というので書いていた論文を、アグリビジネスという横軸でもう一回再編集して見直す。そこに発見があったりするのでインターネットの活用で編集という概念も、変わりつつあると思います。
情報源:知恵クリップ < http://chieclip.com/ >clipped by 神宮司信也< http://chieclip.com/userinfo.php?uid=5.